Ritzのレストラン提案調査での第3弾、フレンチレストラン編を締め括るのはパレスホテル東京のミシュラン星付きメインダイニング、Esterre。
まずはエントランスの正面で木をくり抜いて作った野菜達のオブジェがお出迎え。チャーミングだが品がある。お決まりのワインセラーウォールを抜けると目の前には皇居外苑の荘厳な風景が出迎える。お一人様は決まって左端に通される。着席の瞬間、皇居外苑を貫き摩天楼へと続く内堀通りのスコールで濡れた路面を照らすヘッドライトがムーディーだ。ベスポジ席と高揚する。店内に目を向けるとベージュをキーカラーとした落ち着いた佇まい、E.T.にも似たチェアが何とも可愛らしいし心地いい。
スターターは鎌倉住まいのシェフが買い付けた鎌倉野菜、そして海岸で拾った石を温めてプチパンをちょこんとサーブされた、ほのぼのプレゼンテーションに心が和む。合わせるのはロートシルトのシャンパーニュ、パワフルであって繊細だ。さすが特級シャトーが手がけた一品だ。
1品目はオマール海老の一皿。フレッシュでいて濃厚、弾ける食感とブルターニュのオマールを完璧なまでに踊らせている。たまらない、止まらない。気がつくとロートシルトのシャンパーニュの2杯目を手にしていた。
2品目は甘鯛のポアレ、枝豆のソースが秀逸だ。加えて上品な甘みの香る油が乗った肉厚の甘鯛、赤ワインを勧めたソムリエの懐深さを垣間見た。待ってましたとばかりにデキャンタージュされたシャトーランシュバーシュが注がれる。テロワールとタンニンが深く強く絡み合う、ポイヤックの王道だ。魚料理とのマリアージュに自ずと心が踊る、まさにまな板の上の鯉ならぬ鯛といったところか。
3品目は鰻とズッキーニをアスパラのピュレで。何だろうこの感覚、鰻といえば蒲焼だ、そのステレオタイプが恥ずかしい。今宵ソースで鰻が新しい、動揺と新鮮が交錯する、ここはランシュバーシュで落ち着こう。口をついて出た言葉は“美味しい”だ。やはりデュカスはただものではない。日本へのオマージュが半端ない。
4品目の肉料理、お目当ての田中久工氏の神戸牛がまさかのランチで完売の衝撃。気を取り直し、宮崎産の黒トリュフを贅沢に乗せた和牛のステーキをオーダーする。赤牛の旨みと微かに舌を撫でる上質な脂の甘みを、完璧なまでの火入れで閉じ込めた逸品をフレッシュな黒トリュフの香りで包み込む。正にメインイベンター、真打登場だ。存分に空気を絡めてデキャンタージュされたランシュバーシュが完璧なまでにエスコートし、宴もたけなわ至福のひと時の訪れだ。
いよいよエピローグのデザートだ。ベリーのタルトのプリン仕立て、ランシュのラストスクイーズで堪能する。
日本代表で唯一無二の5スターホテル、そのメインダイニングに相応しいクオリティ、ホスピタリティそしてラグジュアリティ。外を眺めると窓越しに降りしきるスコールに、ヘッドライトが雫のプリズムで屈折し、濡れるパレス、滴るエステール、至極を五感で感じたひと時であった。”フランス発のRitzにも繋がる点は多いのでは?”思わず口遊み、今宵のリサーチディナーを締め括った。