ハワイ所有物件ホテルコンドへのテナントレストラン提案にむけた調査として、ジャパニーズフレンチの王道、The Okura TokyoのNouvelle Epoqueを訪問した。
世界、そして日本の要人が幾度となく訪れた旧館のヘリテージ館を抜け、新館であるプレステージ館へ。ロビーが思いの外こじんまりと簡素であることに少々驚きつつ、Nouvelle Epoqueの敷居をくぐると、本日ディナータイム初客とのこともあり、そこは白を基調とした清涼と静寂に包まれ、洋と和が見事に調和した空間が現れた。
ジャパニーズフレンチを代表する名店の気品とサーバー達の自信を秘めた笑顔に導かれ、コーナー席に案内された。天高まである窓からは手入れの行き届いた植栽が広がり、レストランを一望する、まさにCozyなコーナーで、自ずと心が高揚する。
クールダウンを兼ねてグラスのシャンパーニュをオーダーする。“本日のシャンパーニュはパルメのロゼでございます“と女性ソムリエが和かに抜栓してくれた。グラスで抜栓、一番客故の優越だ。円やかでいてキレがある、そして喉越し爽やかであり余韻が残る…桜の開花からの桜吹雪そして桜の絨毯へと、花見の如く味わえる、タイムリーでバランスの取れた1本だ。
そこにホタテと砂肝が2つの小鉢のアミューズが運ばれた。Surf & Turfで色目と食感の違いを味わいつつ、パルメが進む。2皿目、海の幸とホワイトアスパラを鶏のジュレで包み込み、Surf & Turfに大地の香りと食感を合わせた一品だ。思わずパルメの2杯目をオーダーした。
3皿目はお目当ての1品、フォアグラのコンフィ、ジュレは白ワインとバルサミコを合わせヘーゼルナッツのオイルで調和されている、引き立て役には十分すぎるバランスだ。そしてフォアグラの新鮮さ、濃厚さ、そして口溶けの良さはグレードの高さが窺える。Farm to Table の徹底管理の賜物、5つ星ホテルならではの一品だ。ここでデキャンタージュで出番待ちのラフィットのセカンド、カリュアドの登壇。ビンテージは息子のバースイヤーの2012、役者が揃う瞬間だ。勿論ここで1番大きなボルドーグラスをリクエスト、至極の後幕がはじまる。
4皿目、いよいよメインの1品目、オマールブルーのローストが運ばれた。目の前でローズマリーのスモークパフォーマンスが披露され、自ずと気持ちが高揚する。プリップリでロングテールなオマールに甲殻類のソースがよく絡む、視覚に嗅覚、そして味覚で魅了する、これぞ皿の上のラ・マルセイユ、カリュアドを注ぐピッチが制御不能、ヌーベルエポックに没入だ。
ノックアウト寸前、カウントエイトでたいらげると、メインのトリは仔牛のポアレ、モリーユ茸を出汁にサフランでマスキングした湯船に浮かぶ一品だ。あたらしい、異素材なのに思いやる、温かい素材の心が手を繋ぐ、桜の季節のヌーベルフレンチに相応しい、軽やかで、濃厚で、それでいて味わい深いストーリー。料理にも脚本家は必要だ。
柑橘系のソースにジュレにアイスクリーム、畳みかける爽やかよろしく主張する終幕。カリュアドの最後の一口を飲み干して、今宵のヌーベルステージを終わらせた。ヒストリーとストーリー、そしてシーズナルなエッセンスをタイムリーに織り交ぜる。新しい、それでいて懐かしい、そんな感覚を抱きつつ、リッツ再生へのヒントを感じたひと時であった。