今日は年に数度の長男坊とのディナー。早朝10kmランで身を引き締め、お気に入りの服に身を纏う。毎度毎度のルーチンである。
今宵の店は代々木上原の老舗フレンチ、ラ・ファソン古賀。上原1丁目に移転し装いもい新たにグランドオープンしてから早9年、前身のコム・シェ・ヴを大山町に開店してからは既に20年以上の月日が流れている。まさに代々木上原の老舗フレンチ、地元民に愛され続ける名店だ。
アミューズは春香る今旬素材の白魚とホタルイカ、そしてGABAたっぷりの蕾菜で自ずと気持ちも軽やかに。そして合わせるのはドラピエ、最近ハマっている”ほぼ”ブラン・ド・ピノ・ノワールのシャンパーニュ、このあと続く温前菜との相性も抜群だ。
ポートワインソースで見るも艶やかクリムゾン色に仕上げたフォアグラのフランと、旨味たっぷり濃厚なロワール産ホワイトアスパラとフォアグラソテーをベアルネーズソースでコーティング。マヨラーの方々には失礼であるが、フランスとアメリカでは食の歴史も意識もレベちである。
そして温前菜の締めはシャキシャキの春筍とプリップリの蛤のソテーに浅利のリゾットをピスタチオソースで。色鮮やかで香り高く、素材とソースがマリアージュ。極上の前菜トリオ堪能した。
魚料理は王道の平目のポワレをういきょう風味のバジルソースで。フェンネルの甘い芳香とバジルのスパイシーさが、奥行きのある風味となって、肉厚の平目を包み込む。見た目も鮮やかで五感の感度が駄々上がりする。
グラスワインのマリアージュをリクエストするとペサック・レオニヤンのラベイユ・ド・フューザル・ブランが注がれた。皇帝や法皇も愛飲したとされるグラーヴの雄、シャトー・フューザルの白である。柑橘系のアロマと酸味に仄かな甘味と苦味が絡み合う重厚なボディで、ソーヴィニヨン・ブランの単なる引き立て役ではないセミヨンの主張が心憎い一杯、アッサンブラージュの成せる技か。
本日の肉料理は蝦夷鹿のソテーをジビエの定番グランヴヌールソースで。赤ワインとカシスの酸甘が溶け合う濃厚なソースと新鮮な蝦夷鹿の肉汁とが相俟って、奥行きのある味わいに仕上がっている。ここでお待ちかねの赤ワインを抜栓する。ソムリエのお薦めはやはり右岸の2品であった。ポムロールとサン・テミリオン、悩んだ末にシャトー・シュヴァル・ノアールをチョイスした。芳醇なアロマと滑らかなタンニン、メルロー100%でこのストラクチャーは伊達ではない。手摘みと樽熟成の妙味だろう。ジビエとの相性も抜群だ。
ボトルの底が顔を見せ始めた頃、デセールが運ばれた。桜薫発酵バターミルクアイスに抹茶のブリュレ、最後はジャポニズムで締めるあたりが心憎い。カフェインを入れるには時期尚早、カルバドスとマールで暫し余韻に浸るとする。ビジネスからソーシャルライフ、そしてファッションやテックトレンドにフューチャービジョンまで、地政学を絡めながら語り合う。親子にして親友、そしてちょっぴりメンターとして父の威厳を保ちつつ、会話が弾む。息子の成長を感じながら、美食と共に旨いお酒を酌み交わす、父親冥利に尽きるそんなひと時が心地いい。
フレンチの定番ソースの面々を、独自の感性で次々と捻りを加え、季節感も醸し出す一皿一皿、古賀シェフが古賀シェフたる所以だろう。加えてミュージシャンから転身し、アフォーダブル・ラグジュアリーな泡やワインをポエムのように見事なまでにマリアージュさせる東海林(とうかいりん)ソムリエ。この親子ほどの歳の差のある2人の間のグラビティ、そのポテンシャルは底しれない。